ポルセキ新聞お蔵入り原稿に花束をポルシェ主義教育は子供をポルシェ主義者に教育中　前編

更新日: 2007年10月29日

まだまだありますお蔵入り原稿。今から7年ほど前に書いたポルシェ初心者向け単行本用原稿（お蔵入り企画）ですので、現状にそぐわない面がありますが、その辺はご容赦を。また、文中に頻発する「ポルシェ主義者」というのが、たしかこの単行本のキーワードになっていたように記憶しています。なお、文体は単行本用のままになっております。

　お父さんポルシェ主義者の多くは、自分の子供もポルシェ好きであって欲しいと強く願っている。「お父さん、すごォい」と、無邪気に喜ぶ子供を助手席に乗せて、ポルシェを運転できたらなんて素晴らしいだろうと夢想している。彼らは、『「ポルシェ好きの自分」と「ポルシェ好きの自分に慕う、もしくはそんな自分に尊敬の念を抱く息子（娘）」という図式』に、心底憧れているのだ。

　あるポルシェオーナーは、「小学生の息子がね、ポルシェを洗車するのが好きでね」と相好を崩して話す。なにしろ、ポルシェ以外の車を洗うときは手伝ってくれないのだが、ポルシェであれば進んで手伝ってくれるというのだ。お父さんポルシェ主義者にとって、これは嬉しい。

　「僕、ポルシェ大好きなんだ」

　無邪気な笑顔（少なくとも、親にはこう見える）で子供にこう言われると、全てのお父さんポルシェ主義者は幸福感で頬が上気してしまう。ちなみに、件のお子さんはポルシェが大好きだから、もちろん助手席に乗ってドライブするのも大好きである。

　「ポルシェでドライブに連れてってよ」

　お父さんポルシェ主義者は、この言葉で大抵やられる。

　しかし、世の中そう上手くいかないのは周知のとおり。右の例は極端に稀なケースと考えた方がいい。

　一般的に、ポルシェ主義者の子供は、ポルシェが嫌いだ。

　なぜか。

　答えは簡単。

　ポルシェ主義者が、子供を強引にポルシェに乗せてドライブに出かけるからである。ここで注意したいのは、ポルシェ主義者は少しも「強引に」子供をポルシェに乗せているとは感じていないことだ。それどころか、子供にも自分の大好きなポルシェの良さが分かると頑なに信じている。子供がポルシェに乗ることを、心から喜んでいると思っているのだ。悪気は一切ない。

　ポルシェは、はっきりいって乗り心地の良い快適な車ではない。室内は狭いし、路面の悪さに従ってゴツゴツと車が跳ねる。エンジン音はうるさく、古いポルシェならエアコンは効かない。

　運転している当人は、大好きなポルシェのハンドルを握っていることで気分が高揚しているから、そんなことは少しも気にならない。というよりも、室内の狭さを「ポルシェを着る」と表現し、恍惚となる。ゴツゴツとした乗り心地は、レーシングカーに乗っているような錯覚を生み出し、気分はレーシングドライバーへとトリップする。エンジン音のうるささはミュージックに聞こえ、エアコンが効かないのは、ストイックさと解釈する。

　つまりポルシェ主義者は、ポルシェに対して非常にポジティブシンキングなのだ。

　しかし、同行させられる子供はたまらない。

　それでも、助手席に乗せられたのならまだ運がいい。一家に一台、車がポルシェだけというポルシェ主義者の場合、家族で出かけるときは必然的に子供は後部座席に座らされることになる。

　こうなると地獄だ。
（後編に続く）